ゆっくりとした絶滅から、これまでにない速さでの絶滅。環境破壊が原因です。
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いきものヒストリー第4話:いきものの絶滅
ゆっくりとした絶滅から、これまでにない速さでの絶滅
これまでに地球上の生物は何度も大量絶滅にあってきました。その中で特に白亜紀(6500万年前)の恐竜の大量絶滅は有名ですが、この時代は1000年に1種が絶滅するというゆっくりした時代でした。この恐竜の大絶滅は地球環境の大激変(隕石衝突)によって起こったとされていますが、こ のような自然絶滅の場合は、いきものの新しい進化を促すことが多く、完全に 死に絶えることはないとされています。
しかし、図に示したように、17世紀になると4年に1種が絶滅し、1975年以降になると1年間に1000種もの生き物が絶滅したとされ、 絶滅のスピードがどんどん速まっています。
このように、急速に絶滅のスピードが速まったのは、人間による狩猟や森林開 発などの環境破壊が主な原因とされていますが、自然絶滅とは異なり、人間が起こした絶滅には新しく生物の進化が起こる可能性が少なくなるのではないかと考えられており、そこに深刻な問題点があるのです。
(地球白書1999-2000 ワールドウォッチ研究所より)
生物絶滅の現状
2006年、国際自然保護連合(IUCN)の地球上の生物の状況に関する評価によりますと(表1・植物は除く)、絶滅の恐れのある種は7729種で、そのうち地球上のほ乳類5416種の23%が絶滅の危機に直面していることが明らかになりました。さらに、両生類では31%、魚類では4%、は虫類では4%が絶滅の危機にさらされています。
表1 絶滅の恐れのある種(2006年)
生物種 | 記載種 | 「絶滅が危惧される状態にある種」 | 記載された既知の種に対する「絶滅が危惧される状態にある種」の比率(%) |
脊椎動物 | |||
哺乳類 | 5,416 | 1,093 | 20 |
鳥類 | 9,934 | 1,206 | 12 |
爬虫類 | 8,240 | 341 | 4 |
両生類 | 5,918 | 1,811 | 31 |
魚類 | 29,300 | 1,173 | 4 |
小計 | 58,808 | 5,624 | 10 |
無脊椎動物 | |||
昆虫 | 950,000 | 623 | 0.07 |
軟体動物 | 70,000 | 975 | 1.39 |
爬虫類 | 8,240 | 341 | 4 |
甲殻類 | 40,000 | 459 | 1.15 |
その他 | 130,200 | 44 | 0.03 |
小計 | 1,190,200 | 2,101 | 0.18 |
出所(国際自然保護連合(IUCN)、植物を除く)
一方、日本においては20世紀以降に絶滅、もしくはその可能性が高いと思われる動物は鳥類が11種と最も多く、ほ乳類4種、魚類3種の合計18種となっています(表2)。
表2 日本において20世紀以降絶滅した動物たち
年 | 分布地域 | 動物種 | 関連記事 |
1900 | 北海道 | エゾオオカミ | |
1905 | 本土 | ニホンオオカミ | |
1913 | 北海道 | カンムリツクシガモ | |
1915 | 小笠原 | オガサワラアブラコウモリ | 1828年絶滅
オガサワラガビチョウ
オガサワラマシコ 1870年絶滅 オキナワオオコウモリ |
1919 | 宮古島 | ミヤコショウビン | |
1920 | 対馬 | キタタキ | クマゲラの仲間 発見から41年で絶滅 |
1922 | 小笠原 | ダイトウヤマガラ | |
1924 | 小笠原 | マミジロクイナ | 最近、沖縄で見つかった ヤンバルクイナは絶滅危惧IA(*) |
1930 | 小笠原 | ムコジマメグロ | |
1936 | 沖縄 | リュウキュウカラスバト | 1889年絶滅 オガサワラカラスバト |
1938 | 南大東島 | ダイトウミソサザイ | |
1940 | 秋田県田沢湖 | クニマス | 西湖でクニマス発見 |
1940 | 日本海 | ニホンアシカ | |
1960 | 京都・兵庫の河川 | ミナミトミヨ | |
1960 | 長野県諏訪湖 | スワモロコ | |
1979(?) | 本土 | ニホンカワウソ | |
1986 | 本土 | コウノトリ | 国内繁殖 野生個体群は絶滅 |
2003 | 佐渡 | トキ | 日本産野生種の絶滅 |
IA(*)=ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いもの
ここではすでに絶滅したニホンオオカミと絶滅した可能性が高いニホンカワウソにスポットをあててみたいと思います。
オオカミの苦難・・・頂点から絶滅へ
縄文人の祖先がやってくる以前の洪積世(200万年前~1万年前)の日本列島は、大陸とまだ陸続きであった時期があり、マンモスゾウ、オオツノシ カ、ヘラジカなどが日本に渡ってきており、その後、九州、栃木、青森などではオオカミがすでに定着し、シカやイノシシを餌にしていたと思われます。岐阜県郡上では3万年前のニホンオオカミの化石が見つかっています。その後1万2000年前の縄文時代が始まる頃には、日本列島は大陸から完全に離れ、氷河期からの温暖化により水面が上昇し、現在の日本列島の原型ができあがったとされています。
(縄文時代中期には26万人ほどが住んでいましたが、そのうち25万人は東日本に住んでいました)
大陸と離れたことにより、旧石器時代から生きてきたナウマンゾウ、オオツノジカ、ヘラジカなどは絶滅してしまい、オオカミたちにとっては苦難の道が待っていました。
ニホンオオカミ(学名 Canis lupus hodophilax 大きさは中型の日本犬と同じくらいで、脚は長く耳は短く尾は垂れている)は大陸のハイイロオオカミ(学名 Canis lupus)の亜種とされており、日本列島が大陸と離れた約17万年前に分岐したと考えられています。このニホンオオカミは江戸時代になっても人の住む村にもよく現われ、五代将軍・徳川綱吉はオオカミを殺すことを禁じておりました。
ニホンオオカミは日本では神秘的で強いイメージの伝説があり、大昔から畑や田を荒らすイノシシやシカを退治してくれる農耕の守護神(犬神様)としてあがめられていました。神社ではオオカミを描いた魔除けの護符が売られていました。また古代エジプトでもオオカミは神として崇拝されており、モンゴルのチンギス・ハーンはオオカミの息子と呼ばれていました(ただ、ヨーロッパではオオカミは家畜を襲う動物として危険視されていたそうです)。
このようにオオカミは日本では人から恐れられ、日本の森林生態系の頂点に君臨していましたが、ついに1900年には北海道でエゾオオカミ(大型でシェパードくらいの大きさ、学名はCains lupus hattai)が、続いて1905年には本土のニホンオオカミが絶滅してしまいました。
ニホンオオカミが絶滅した原因として考えられているのは、
(1)江戸時代オオカミの間で広がった狂犬病によって生息数を減らした。また、この狂犬病にかかったオオカミが家畜や人を襲ったために狩猟の対象になったようです。
(2)明治以降に輸入された犬からジステンバーという伝染病が広がってさらに生息数を減らした。
(3)自然環境の破壊によるオオカミの生息地が減少すると共に餌となるシカなども少なくなっていった。
以上のことが重なりあい滅んでしまったと考えられています。
オオカミは海外ではどうなっているの?、
日本のオオカミについては上記のように1905年の明治時代に絶滅しています。
一方、海外のオオカミはどうなっているのでしょうか?
まず、英国では1680年代までに絶滅し、現在に至るまで生息していません。
次に、フランスでは19世紀後半までに一度は殺害されてしまいましたが、その後、復活し、1990年代にはおよそ360頭が生存しているとされています。
また、ノルウェーでは15-20頭、ドイツでは35頭、スウェーデンでは70-80頭、フィンランドでは100頭前後が生存しているようです。一方、ブルガリアでは800-1000頭、米国ではロッキー山脈やカナダ国境沿いの森林に1000頭、ルーマニアでは2500頭、ウズベキスタン、タジキスタン、キルギスタンなどでは2000-4000頭と多くが生息しており、モンゴルでは1万~2万頭、ロシアでは3万頭と多数のオオカミが生息しています。
河童伝説とともに消えるニホンカワウソ
日本各地の水辺に生息していましたが、すでに絶滅した可能性が高いと考えられています。ニホンカワウソはイタチ科に属し、同じ仲間にラッコがいます。小型犬ほどの大きさで(高さ1m以内)、足に水かきがあり、泳ぎが得意です。夜行性で生きた魚、エビ、カニなどを食べていました。人間にとって身近な存在で、立って魚を探す姿を見て河童伝説が生まれたといわれています。
河童は想像上の動物です。水陸両用に活動し、姿は3~4歳くらいの子どもに見え、くちばしがとがり頭の毛は少なく、「さら」と称するくぼみが頭にあります。中には少量の水が入っており、この水がなくなると元気がなくなるとされています。キュウリが好物で、かっぱ巻きはこのことから名付けられ、伝説上、大変ユニークないきものとされています。
ニホンカワウソの毛皮は保湿力に優れているため乱獲され、他に農薬や排水による水質悪化や高度経済成長期の開発や河川の護岸工事などによって生息数が減少し、1979年高知県新荘川で目撃されたのが最後になりました。
そしてだれもいなくなった・・・では困ります。
地球が誕生して46億年(原始地球の大きさは現在の地球の10分の1くらいでした)、生命が地球上に誕生して38億年、生物は進化を続け21億年前には真核生物(しんかくせいぶつ※)が、12億年前には多細胞生物が現れ、今からおよそ6億年前に肉眼で見えるくらいの大きさの生物や骨格を持った生物が生まれてきました。
そして、現在の我々の祖先であるホモ・サピエンスという人類がアフリカでおよそ6万年前~5万年前に誕生しました。このように地球上には長い長い年月を経て多種多様な生物が登場しては消えていきました。
現在、この地球上には3000万種もの生物が生きています。このような多様な生物が共に将来にわたって生き続けていくことが大切であります。この3000万種にも及ぶ種の多様性と共に森、山、川、海、沼、サンゴ礁までにみられる生態系の多様性、さらにはそのもととなる多種多様な遺伝子の多様性を将来にわたって繋いでいきたいものです。
日々、毎日の生活の中で我々人間に運命をまかせて必死に生きている生物がいます。温暖化の影響により暖かくなった北極で餌を捕ったり子育てをしたりするために少なくなった浮氷を求めてさまよい歩く親子のホッキョクグマの姿がテレビに映し出されていました。
世界中で子どもに人気があるトラも、毛皮、ツメ、精力剤、抗けいれん剤、膏薬、虎骨酒などに利用されるため、トラの密猟が絶えず森林開発の影響もあって生息数を減らしています。
現在、世界中で生存しているトラは4000頭を切ってしまい、アモイトラ、ジャワトラはすでに絶滅してしまいました。死後(絶滅)珍重されるトラの現状を生きている間に大切にされるような時代になってほしいと願っております。
(ワールド・ウオッチ日本語版、Vol.21、No.4参照・ライター:エリザベス・オニール)
※真核生物とは=細胞の中に核膜に包まれた核(DNAを収納している)を持ち、ミトコンドリアや葉緑体などの細胞小器官を持つ生物を真核生物といい、現在の地球上の植物や動物の多くはこの真核生物を起源として進化してきたといわれています。
最後に地球温暖化などについて取り決められた国際間の条約を簡単に紹介しておきます。
1地球温暖化(気候変動枠組み条約)
温室効果ガスの排出を減らすために1992年に採択。国ごとに目標をかかげて計画を立て、定期的にチェックすることを定めた。先進国は2000年までに1990年の排出レベルまで戻すことを目標にしている。
2京都議定書
1997年に気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3、京都会議)で採択された。2008年~2012年の先進各国の温室効果ガス削減数値目標を定めた。
3気候変動枠組条約締約国会議(COP)
温室効果ガスの具体的な削減目標が命じされていないなど不十分な点があったため、気候変動枠組条約を採択した各国が1995年に第1回締約国会議(COP1)がベルリンで開催し、以後毎年開催されている。
4成層圏オゾン層破壊(ウィーン条約)
ウィーン条約に基づき、オゾン層破壊の防止策を定めたもの。フロン、ハロン、四塩化炭素、臭化メチルなどの規制を行っている。1987年採択。1989年に発効。その後、数回改定強化された。1995年、149ヶ国が加入。
5成層圏オゾン層破壊(モントリオール議定書)
温室効果ガスの排出を減らすために1992年に採択。国ごとに目標をかかげて計画を立て、定期的にチェックすることを定めた。先進国は2000年までに1990年の排出レベルまで戻すことを目標にしている。
6酸性雨(ヘルシンキ議定書)
長距離越境大気汚染条約(1979年国連ヨーロッパ経済委員会で採択。加盟各国に越境大気汚染防止を求めている)に基づき、1988年に21ヶ国が署名。この議定書では、1980年時点の硫黄の排出量の最低限30%を1993年までに削減するとしている。
7酸性雨(ソフィア議定書)
国連ヨーロッパ経済委員会に属する25ヶ国が1988年に署名。1994年までに窒素酸化物の排出量を1987年時点の排出量に凍結することや、無給ガソリンの十分な供給をすることを義務づけている。
8砂漠化(砂漠化防止条約)
1994年にアフリカ諸国の要請で合意された条約。熱帯林伐採、放牧自然現象などによる砂漠化への対策として、各国に様々な義務を課している。
9熱帯雨林の減少(ノートルヴェイク宣言)
1989年11月、オランダのノートルヴェイクで開かれた「大気汚染と気候変動に関する環境大臣会議」で採択された宣言で、温室効果ガスの排出量を安定化させる必要性が取り入れられている。
10海洋汚染(ロンドンダンピング条約)
1975年発効の海洋汚染防止に関する条約。放射性廃棄物は全て海洋投棄は禁止。産業廃棄物は、例外を除いて禁止。
11海洋汚染(マルポール73/78条約)
船舶からの油や有害液体物質、廃棄物の排出などに関する規制を行っている。1978年採択、1983年発行。日本加入。
12野生生物の種の減少(ラムサール条約)
生物の生息地である湿地を保護するもの。水鳥は渡り鳥として国境を越えるものが多く、国際協力が必要として、1971年に条約が結ばれた。締結国は湿地保全計画の実施や、湿地変化などについて報告する義務がある。
13野生生物の種の減少(ワシントン条約)
絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約。1975年に発効。商業取引が禁止されている種や規定の手続きを行えば商取引ができる種がある。動植物の生死や加工の有無や全体一部に関係なく適用される。
14野生生物の種の減少(生物多様性条約)
絶滅の危機に直面している野生生物の住む地域の開発に制限を加えて、多種類の生物の存続と生物資源の持続的利用を目的とした条約で1992年に採決。保全の措置・資金の問題、生物資源保有国の権利、バイオテクノロジーの安全性などについて定められている。
15有害廃棄物の越境移動(バーゼル条約)
先進国で発生した有害廃棄物の途上国への輸送を防ぐことを目的とした条約で1989年に採択。日本は1993年にバーゼル条約に加入するとともに「特定有害廃棄物の輸入等の輸入等の規制に関する法律」を制定。1997年にはリサイクル目的も含めて、日本から途上国への有害廃棄物の輸出が禁止。
第1話 | 地球の絶妙な位置 |
第2話 | 地球規模の9項目-温暖化ってどういうこと? |
第3話 | 温暖化と蚊-生息域の拡大で起こること- |
第4話 | 生物の絶滅-かつてないほどのスピードで消えていくー |
第5話 | クニマス-奇跡の魚と呼ばれて- |
第6話 | 日本列島は生き物の宝庫です-固有種がたくさん生息しています- |
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