奇跡の魚、クニマス。田沢湖から西湖へ
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いきものヒストリー第5話:クニマス~奇跡の魚と呼ばれて
田沢湖から西湖へ
その昔、日本では秋田県田沢湖(日本一深い湖で最深423メートルあり、透明度が極めて高い湖)のみに生息していたクニマス(サケ科の淡水魚 英名 black kokanee、学名 Oncorhynchus kawamurae)は1940年、水力発電のため玉川の強酸性水を導入したことで絶滅したとされていましたが、2010年、70年ぶりに秋田から遠く離れた山梨県の西湖で生きのびていたのが確認されました。西湖の水深30~40メートルの深い場所におよそ1万匹が生息しているそうです。
なお、昭和10年に秋田県田沢湖から山梨県本栖湖にクニマスの受精卵10万個が送られ、ふ化放流されていた記録が残っています。
[写真:西湖と田沢湖]
クニマスは黒いヒメマスあるいはクロマスとも呼ばれ、水深の深い場所に生息しているため皮は硬いが肉はヒメマスより柔らかく美味しく、地元では高級魚とされ、正月か病気の時に食べていたとされています。江戸時代、秋田藩主である佐竹義和公が田沢湖を訪れた際にこのクロマスを食べ、大変においしいと言われ、お国産のマスとしてはどうかということから国鱒(クニマス)と呼ばれるようになったそうです。
天皇陛下の会見
2010年12月23日天皇陛下が誕生日の会見で以下のように語られています(産經新聞より)。 今年は国際連合が定めた国際生物多様性年に当たり、また、生物多様性条約第10回締約国会議が多くの国々の参加者を名古屋市に迎え、開催されました。この会議では、さまざまな論議が交わされましたが、最終的に各国の同意を得て、会議が滞りなく終了したことは喜ばしいことでした。より多くの人々が生物多様性に関心を持つようになった意義ある会議であったと思います。
この生物多様性年も終わりに近いころ、日本の淡水魚が1種増えました。それは、最近新聞などでも報じられたクニマスのことです。クニマスは田沢湖だけに生息していましたが、昭和の10年代、田沢湖の水を発電に利用するとき、水量を多くするため、酸性の強い川の水を田沢湖に流入させたため、絶滅してしまいました。
ところが、このクニマスの卵がそれ以前に山梨県の西湖に移植されており、そこで繁殖して、今日まで生き延びていたことが今年に入り確認されたのです。本当に奇跡の魚(うお)と言ってもよいように思います。
クニマスについては、私は12歳の時の思い出があります。 この年に、私は、大島正満博士の著書「少年科学物語」の中に、田沢湖のクニマスは酸性の水の流入により、やがて絶滅するであろうということが書かれてあるのを読みました。そしてそのことは私の心の中に深く残るものでした。それから65年、クニマス生存の朗報に接したわけです。
このクニマス発見に大きく貢献され、近くクニマスについての論文を発表される京都大学中坊教授の業績に深く敬意を表するとともに、この度のクニマス発見に東京海洋大学客員准教授さかなクン始め多くの人々がかかわり、協力したことをうれしく思います。
クニマスの今後については、これまで西湖漁業協同組合が西湖を管理して、クニマスが今日まで守られてきたことを考えると、現在の状況のままクニマスを見守り続けていくことが望ましいように思われます。その一方、クニマスが今後絶滅することがないよう危険分散を図ることは是非必要です。
この会見の中に出てくる「少年科学物語」を書かれた大島正満博士は当時、東京府立高等学校(現在の都立大学)教授で動物学者・魚類学者であり、シロアリの防除法なども研究しておられました。天皇陛下は日本産魚類の研究をされており、「ハゼ類の分類の検討」は有名です。国立科学博物館主催の魚類分類研究会にも属されておられます。先の陛下の御言葉の中に科学者・生物学者としての一面を伺い知ることができます。
なお、この大島正満博士の御子息が横浜市立大学医学部の大島智夫名誉教授で衛生害虫やアニサキス、肺吸虫、住血吸虫などの寄生虫を研究されておりました。大島智夫先生は新潟大学医学部の大鶴正満名誉教授(後に琉球大学 医学部を創設されましたが2009年93歳で亡くなられています)と親交があり、生前、大鶴先生は酒の席で「大島先生のオヤジ殿は自分と名前が同じで苗字が「鶴」と「島」の一字違いである」と言っておられたのを覚えております。
当時の記事
第1話 | 地球の絶妙な位置 |
第2話 | 地球規模の9項目-温暖化ってどういうこと? |
第3話 | 温暖化と蚊-生息域の拡大で起こること- |
第4話 | 生物の絶滅-かつてないほどのスピードで消えていくー |
第5話 | クニマス-奇跡の魚と呼ばれて- |
第6話 | 日本列島は生き物の宝庫です-固有種がたくさん生息しています- |
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